金を借りた訳じゃない、俺はプライドを売ったのだ

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 警官はその肥満な容姿からは想像出来ない速度で、肉弾戦車のようなタックルを変態に向かって繰り出す。生身の人間がその衝撃を受ければ無事ではいられないだろう。 あまりの恐ろしさに変態と直線状にいる彼は脱兎の如く駆け出すが、変態は何かを思い出したかのように止まって振り返る。 「待て!ふ……実は私はピースライトの一員なんだよ!!そして……これがその証拠だ!!」 自慢をするように変態はそう叫んだ。同時に高く振り上げた右手からは小さな、息を吹きかけたら消えてしまうほどの火が出現する。   「何してるんだ…あいつ」  既に遠くまで退避していた彼は遠巻きに奇妙な光景を見ていた。眼前まで迫っているタックルに気にも留めず右手を空に伸ばしていことに。 「あ……吹っ飛んだ……」  変態は数メートル先に流れている川までくるりくるりと回転して吹っ飛ぶと川の中央にボチャンと音を立てて落下した。  遠くでカラスが一回鳴いた。 ◇ 「いやぁ、すみませんねぇ……」  川から変態を引き上げた警官は開口一番にそう言った。私、ラグビー部だったんですよ……なんて懐かしむように、聞いてもないことも口に出す。 「でもまさかピースライトがこんな格好しているとは知りませんでしたよ。」 「いや、これは自分の趣味です」 「……そうなんですか」  ピースライトというのは悪人の捕獲やアンダーと呼ばれる怪物の討伐など、警察では手に負えないようなものを扱う、いわゆる正義の味方である。彼らの特徴として知られるのが体のあらゆる表面から自在に火を出すことだ。そしてその炎は自由に扱える。     アンダーは炎ーーーというより熱の変化に弱い。だからピースライトはアンダーに対抗できる最も有力な力である。  現代の武器では倒せない怪物を倒せるのは、彼らしかいなかった。
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