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――それは、運命だったと思うの。
ゆかりはとても嬉しそうに、ほっそりとした頬を赤らめて私に話してくれた。長い髪を揺らして、くっきりとした二重瞼に包まれた目を細めて。
その顔は鏡の中に見る自分の顔とそっくりなのに、とてもきらきらしていて、綺麗で……いつもの顔とは全然別人に見えた。
恋? ゆかりは、恋をしているの?
恋って、こんなに女の子をきらきらさせるものなの?
相手は他校の生徒らしい。制服から、私と同じ高校だと思うとゆかりは言った。
「どんな人?」
「すごく、素敵な人。かっこいいのももちろんだけれど、すごく、優しいの」
出会いは駅。定期入れをなくして困っていたゆかりの肩を叩き、足元に落ちていた定期を拾ってくれたのが彼だったらしい。
名前を聞けなかったゆかりのために彼について調べようにも、彼女の説明では要領を得ない。
「んー……もっとこう、特徴みたいなのないの?」
聞いてみるけれど、浮かれきったゆかりの口からは「かっこいい人」としか出てこなかった。
私と同じ学校に通う、「かっこいい人」。
「探してくれるでしょ?」
ゆかりはキラキラと輝く笑顔でそう言った。
私は苦笑を浮かべる。
砂場から砂鉄を見つける方がまだ簡単だ。磁石を当てればすぐにくっついてくるんだから。
ゆかりのお目当ても、私がいけばくっついてきたらいいのに。
それでも可愛い妹のために、私は「調べてみる」と頷いた。
「ありがとう、あおい!」
ゆかりは抱きつかんばかりに喜んで、雰囲気までぱっと明るくなったように見えた。
そんな彼女を見て、私は自分がそうして喜んでいるような錯覚に陥る。
同じように肩まで伸ばした髪型、顔のつくり、それはまさに私なのだ。
中学校までは同じ学校に通っていたので髪型はどちらかが結ぶ決まりだったのだが、高校で別れてからはそれもなくなり、家では親にさえもよく間違えられる。
たぶん、確実に認識できるのはお互いくらいだ。
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