第1話

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*** 次の日、学校に行く道でなんとなくゆかりの想い人を探してみた。 けれどゆかりの言っていた、「かっこよくて優しい人」なんて分かるはずもない。 というか、情報が少なすぎるのだ。 たとえば目の前を歩く男子学生だって、見ようによっては格好いいし、下がり気味の目じりは優しそうでもある。 その隣にいる男子も、はっきりとした顔立ちだし、ゆかりのタイプなのかもしれない。 ただ彼らは違うだろうと分かる。 だって、私を見ても全く反応なし。 昨日ゆかりと会っているなら、私を見て少しは反応があるものだろう。 なんだか、砂場から砂鉄を見つけるための磁石になった気分。 ただ、ちょっと定期を拾ってあげただけの女の子の顔なんて覚えていないかもしれないし、なんとも頼りない磁石だ。 やっぱり、探すのが困難なのに変わりはない。 ほうっとため息が漏れた。 こんなんで、見つけてあげられるのかな。 「なぁに暗い顔してるの?」 ぽんっと背を叩かれた。 知った声に笑みを浮かべて振りむく。 「おはよ、あんちゃん」 「おはよ」 あんちゃんはにかっと笑って言った。 彼女は葛城杏(かつらぎ あんず)。私は「あんちゃん」と呼んでいる。 クラスメイトで、一番仲のいい女の子だ。 目がくりくりしていて、小動物を思わせる。 低めだけれど整った鼻、人のよさそうなぷっくりと厚い唇。少しくせっ毛で、軽くカールしたショートカットがよく似合っていた。 「なんかあったの?」 先ほどの、彼女に言わせると「暗い顔」を気にしているのか、あんちゃんが少し心配そうな顔になって言った。 「ううん。ただ……」 私は否定してから、ふと思いついて、彼女に聞いてみた。
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