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「なあ、奏多。さっきお前……、何か言いたいことがあったんじゃないの?」
「やっ…………まあそのなんだ、あはははは。えーと、えーと、あっ、そうだっ! そうそうそうだよ優生こそ、何か話があるんだろ!? 大丈夫だよ、気にすんな、オレのは大したことじゃない。だからお前が先に言えよっ」
本当に、オレが言おうとしたことは、スルーするのが正しいくらいどうでもいい事だった。だってあの沈黙を、どうにかしたかっただけだから。
察したのか優生は一度くすりと笑ったのち、「じゃあ、それなら先に言うわー」と空を仰いで息を吸い、それから突然真顔になってオレの顔をじっと見た。
「教室で、稜は普段と違うこと、お前に喋ってなかったか?」
「ううん、何も」
稜は実際、気に留めるようなことなんて、何も言っていなかった。
オレじゃ頼りにならなくて、話す気にもならなかったのだろうか?
たとえほんのわずかでも、遊ぶ時間を捻出したくて……。じゃれながらも競り合うように息を切らして抜けてく道を、今日はゆっくりゆっくりと、ためらいながら歩いてく。
これでもかっ! というくらい、ゆっくり、ゆっくり――。
こんなペースで帰ったことは、これまで一度だって無い。
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