第1章

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 ぽつりぽつりと話しながらも、稜が後ろから「おーい!」って。  大きく手を振り駆けよってくるような、そんな気がオレはして――。  まだ半ば期待してさり気なくのろのろ歩いては、不自然に振り返る。 「変わった様子は?」 「無かった……と思う……」  思い出せ。稜はサインを送ってた? 見落としてしまったのだろうか?  頭の中の抽斗(ひきだし)に何か隠れていないかと、注意深く順番に抜き差ししてはみるけれど……。  やたらと背後が気になって、オレは再び視線を投げた。  でも稜は、やっぱりどこにもいなくって――。  少し伸びた影だけがオレ達の後ろから思いなしか寂しげに、二つゆらゆら並び立ち、付いてきているだけだった。
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