第1章

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「おーい、奏多(かなた)! 帰りの会、お前のクラスも終わったんだろっ!? さっさと帰って遊ぼうぜー!」  校庭の真ん中に、でんっとただ一本だけ。でっかい鈴懸(スズカケ)の木が立っているのが教室の窓からよく見える。  誰もが初めてここへと来ると、決まってアイツに目を止める。  これほど目立つ大木だ。当然ながら学校のシンボルツリーとなっていて、それに因んでオレ達は、なんて呼ばれてる。  今ではすっかり慣れちゃったけど少なからずこのオレは、いくつか季節が巡るまで、この呼び名に不満があった。    そう、確かにあったんだ……。  思い返せば入学当初、何をするにも邪魔な木で。だからこの名が飛びだすと、常にイライラムカムカしてて。  なのにホントに不思議だなぁ。青々とした葉の中に、光のビーズをちりばめそよぐあの木の姿が懐かしい――。  窓際にある一等席で、色味に乏しい景色を眺め、オレは一つ思いきり湿っぽい息を吐きだした。  鈴懸の木というやつは、銀杏や桜に代表される落葉樹のお仲間だ。  よって冬場は見る価値ゼロだ。いや、むしろマイナスか? 葉っぱも実も全てが落ちて丸裸で立っている。  ああー寒い、おお寒い。見ているだけで凍えそう。つられて身震いしちゃうのは、オレだけじゃきっとないはずだ。  まあ。蝉しぐれが降りそそぐ、()だるような暑さの頃には、「もうダメだ。これじゃあ脳みそ溶けちゃうよ。寒いほうがまだマシだー」と来る日も来る日もぼやいては次の季節の到来を今か今かと待ってはいたが……。こんな気温がだらだら続くと誰が予想しただろう。  夏のほうが良かったかな? って、勝手ではあるけどつい思う。    こどもは風の子だなんて嘘っぱち。いったい誰が言いだした?   おとなは火の子らしいけど、それならおとなは猛暑日だってクーラー無しでも平気だろ?   もしかしたらおとなになると、過去の自分を忘れちゃう?   こどもだって人間だ。おとなと同じでやっぱり寒い――。   はあーという(いささ)か過剰気味な声と共に盛大なため息をまた吐くと、オレは机に突っ伏した。  三月十三日、月曜日、晴れ。オレ達六年は残すところ「あと四日」で、この小学校から卒業する。
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