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「もう! 奏多ってばこっちを見ろよ! 遊ぶ時間が減っちゃうぞ! おーい、おーい。か、な、たーっ!」
――トントン。
突然横から肩を叩かれ、オレは思わずビクッとした。我に返ったその途端、不穏な空気に包まれる。ゆるゆる目線を移していくと隣の席の林さんの三角の目が待っていた。
「こっ、怖いよ。林さん、何?」
「何? なんてのんびりと君は今日も言っちゃうのっ!? そろそろ気づいてあげようよ、あの大音量が聞こえない!? いい加減にしなさいよ。さっきから綾瀬くん、名前ずーっと呼ばれてる。廊下から二組の澤村くんに」
んっ? 優生? ああ、そうか。先生の話が長くって、オレ……、つい、ぼーっとしちゃってた。
言われて確かにそういえば、起立、礼、さよならなんて、やったような気がするぞ。
「ごめん、ごめん、あはははは。教えてくれてありがとうー」
とりあえずにこやかに、礼をオレは述べたのに、林さんは呆れた顔を返事の代わりに寄越してきた。
しまった、こいつはやっべーぞ。しつこく念押しされたっけ。まずいぞ、既にご立腹? 週明け早々やらかしたぁ~。
身を乗りだした優生の、視線がぐさりと突き刺さる。オレは弾かれたように立ちあがり「おい稜、帰るぞ」って。律義で且つおっかないお迎えくんの到着を、今度はオレが右斜めうしろの席へと向かって大慌てで知らせていった。
急がないと大変だ。先週に続きくどくどと、聞きたくもない優生の説教タイムが始まんぞ。だってこれはオレ達の「下校の際のお決まりのパターン」として、林さんでさえうんざりするほど繰り返してるんだから。
「ほら、行くぞ。おまえ何してんだよっ!」
この時オレは本当にとにかくヤバイっていう思いでいっぱいで。なかば苛立ち振り向くと、一段大きく呼びかけた。なのに……。
満面の笑みなど浮かべ、いつもの調子で軽やかに放たれた稜からの言葉は、「わりい、今日は先に帰ってて」だった。
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