第1章

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 なのに翌日けろりと忘れ、そんなことをオレ達は、悔やむわりには繰り返しちゃうもんだから。 「うーん……、じゃあ、こうしよう! 今後帰宅後は、誰かの家に集まるんじゃなくて。バットとグローブとサッカーボール。疲れたときに座ってやれる、カードなんかの類いを持って。最も近いあの公園、もしくは川沿いにあるグラウンドに、集合場所は変更だ!」  ということに、いつしか相談して決定した。  まとめたのは優生だけど言い出しっぺはあの稜で、オレはすぐさま快く笑顔を作り頷いた。  確かにこれならより長くこれまでよりもはっちゃけられる! 有意義な時間の使い方にオレ達にはなるだろう――。    しかし、なのに、それなのにー、現実ってば甘くない。宿題してから外に行けって、ある日いきなり母さんが、しょっぱいことを言い出した。  でも宿題なんかしていたら、遊ぶ時間が減っちゃうよー。せっかくの変更も、これじゃちっとも意味ないじゃん。  おまけに咲良(さくら)に捕まっちゃったら、とんでもないことになる。更に時間は輪をかけて、どんどんどんどん消えていってしまう……。  咲良というのは妹だ。オレより八つも年下の、大事な大事な妹だ。  ちょこまか動き、よく喋る。その全てが愛らしい。父さんなんてデレデレだ。  だからオレは咲良に弱い。嫌われちゃったら悲しいもん。あちょんで~(遊んで~)と来られたら、それを強くは拒否できない。  とはいえこれは困ったぞ。約束だってしてるんだ。  なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ。オレはとっても健全な、小学六年の男子だぞ。遊びたいという欲求に抗うなんて不可能だ!  それ故、必死に考えた。そしたらほどなく名案が……。試しに次の日やってみる。  玄関をくぐったら、二階にある自分の部屋へランドセルを放り投げ、急いで階段を駆け下りたら冷蔵庫に置かれてる麦茶ポットを取り出して、喉が渇いたーとか言いながらコップにじゃぶじゃぶ注いでく。  そしてそれを体内へ、流し込んだその直後、できる限りの早口で、こう二人に宣言だ。 「宿題だったら心配ないよ。五時になって帰ってきたら、絶対必ずすぐにやる。外にみんなを待たせてるんだ、だから今は急がなきゃ……。おーっとマズイ、こんな時間! ではではそれじゃあいってきまーす」  あとはにこりと微笑んで、疾風(はやて)のごとく靴を履き、玄関を後にする――。  やったぞ、やった。オレ、天才。思ったとおり大成功~。手強い二人と遣り合ったって勝てる見込みは皆無だし、時は待ってはくれないもん。  何か言われちゃうそのまえに速やかに出発しちゃうのが、間違いなくベストだなっ。
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