第1章

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 ところが……。  そうやって出かけたくせにグラウンドに集合した日には、調子よく宣言したはずの五時を、大幅に遅れるという緊急事態がときどき運悪く発生する。  名誉のためにも言っとくが、もちろんオレに悪気はない――。  だってここ川沿いは、帰宅を促す音楽や、五時ぴったりに鳴るチャイムの音がクリアに聞こえてこないんだ。  あーんなしょっぼいボリュームじゃ……盛り上がって遊んでる無邪気なオレ達の耳までは、全くもって届かない。 「げっ、突然暗くなってきた。今っていったい何時だよ!? 急げ、ただちに撤収だー!」  と、夜の気配に気づきしだい猛ダッシュするけれど、時計の針は非情にも六時をとうに過ぎていたりして。  そうなってしまった日は、大変無念だが致し方ない。母さんが落とす雷を、オレは甘んじてお受けする。  しかし苦難はまだまだ続く。やっ、むしろ本番か!? 黙って出番を待っていた、咲良様のお出ましだ。  母さんよりも、ある意味怖い。オレの帰宅を待ち侘びて、首が最早きりんと化した妹の攻撃は凄まじい。 「まったくもう~、やくちょく(約束)は、守んなきゃダメでちょう! (かな)たんはがっこ(学校)行く大っきいお兄ちゃんなんでしゅよ! はい、ちぇいざっ!(正座)」     なーんて。全力でしかめっ面を作り、母さんの真似をして、偉そーうに腕なんか組んじゃってはいるけれど。ろくに口も回ってないし、見掛けはおおよそ縫いぐるみ……。けれどもそんなガキんちょに小一時間は絞られる。  兄の威厳、台無しだあー。でもまあ、これも仕方ない。五時に帰ると言ったのは、そもそもこのオレなんだもん。  以前のように泣かれるよりは、数段マシにはなったんだ。ここはもう根性で……。耐えろ、オレ、耐えるんだあー! 「きちんとはんちぇい(反省)ちてくだちゃいよっ。えんまちゃま(閻魔様)ってちってます? ちゃくら(咲良)はご本で読みまちた。うちょつきちゃんをみっけると、こーんなこーんなペンチでね――て。ちょっと、奏たん聞いてまちゅ!?」  ううっ。咲良よ、ごめんなさい。兄ちゃんが悪かった……。  足が痺れてきちゃったよぉ~。ホントにホントにごめんなさーい!  オレと同じく優生と稜も、この時ばかりは物凄い剣幕で、こっぴどく叱られるらしい――。
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