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青年・『小野妹子(おののいもこ)』は今、絶体絶命の危機に瀕していた。
「……あ、あははは」
妹子の目前に見えるのは、黒服を身につけた、如何にも堅気の人間ではない雰囲気を醸す男たち。
そして一人の男の手には、札束が詰められたアタッシュケースを手にしている。
いずれも、自分のような普通の人間が見るような光景ではなかった。
一体、何故こんな状況になってしまったかと言うと、それまでの経緯を説明することになる。
彼は住んでいたアパートから追い出された。
行く当てもなく、実家に帰る金もまともにないまま、路頭に迷っていた。
しかも運が悪いことに、ひと気のない路地裏を歩いていると、たまたまマフィアの取引現場を目撃してしまい、あろうことかその構成員の一人に見つかって、現在に至るわけだ。
「げうっ」
壁に叩きつけられ、拳銃を向けられる妹子。四方八方逃げ道は塞がれていた。
「なんだこいつ?」
人混みの中、一人の男が妹子の前に現れる。
男は中折れ帽子に黒のスーツを纏っていて、灰色の髪に真っ赤な目をしていた。
ただの人間である妹子にも、彼が他の者より只者ではないと理解できた。
「一般人かと思われます」
部下の一人が報告する。それを聞いて、男は何やら唸りつつ、くるりと踵を返した。
そして、さらりと言ってのけた。
「殺せ」
その一言は、とても物騒であった。
「なっ……!?」
まさかとは思っていたが、それでも妹子は、その一言に対し恐怖感を感じた。
男の命令に従うように、男たちは一度下ろしていた銃を再び向ける。
四方から向けられる銃は、確実に妹子を殺すために向けられている。
「(……ああ、僕ここで死ぬのか)」
先ほどまで死にたくないと感じていたが、今は死んでもいいかと考えていた。
既に彼の人生は、終わったようなものだ。
アパートを追い出されたのも、家賃もまともに払えずに追い出されただけに過ぎない。
まったくもって、救われない人生だ。と妹子は嘆いた。
そして、銃声が響く。
だが聞こえたのは目の前でははなく、向こうの方だった。
「っ!」
男たちは、銃声のした方向に目を向ける。妹子の事を無視して。
「……?」
それにつられて、妹子もそちらに目を向ける。
そこには、一人の人物が居た。
子供のような背丈で、綻びたローブを纏い、片手にライフル銃を握っていた。
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