第壱話 邂逅

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青年・『小野妹子(おののいもこ)』は今、絶体絶命の危機に瀕していた。 「……あ、あははは」 妹子の目前に見えるのは、黒服を身につけた、如何にも堅気の人間ではない雰囲気を醸す男たち。 そして一人の男の手には、札束が詰められたアタッシュケースを手にしている。 いずれも、自分のような普通の人間が見るような光景ではなかった。 一体、何故こんな状況になってしまったかと言うと、それまでの経緯を説明することになる。 彼は住んでいたアパートから追い出された。 行く当てもなく、実家に帰る金もまともにないまま、路頭に迷っていた。 しかも運が悪いことに、ひと気のない路地裏を歩いていると、たまたまマフィアの取引現場を目撃してしまい、あろうことかその構成員の一人に見つかって、現在に至るわけだ。 「げうっ」 壁に叩きつけられ、拳銃を向けられる妹子。四方八方逃げ道は塞がれていた。 「なんだこいつ?」 人混みの中、一人の男が妹子の前に現れる。 男は中折れ帽子に黒のスーツを纏っていて、灰色の髪に真っ赤な目をしていた。 ただの人間である妹子にも、彼が他の者より只者ではないと理解できた。 「一般人かと思われます」 部下の一人が報告する。それを聞いて、男は何やら唸りつつ、くるりと踵を返した。 そして、さらりと言ってのけた。 「殺せ」 その一言は、とても物騒であった。 「なっ……!?」 まさかとは思っていたが、それでも妹子は、その一言に対し恐怖感を感じた。 男の命令に従うように、男たちは一度下ろしていた銃を再び向ける。 四方から向けられる銃は、確実に妹子を殺すために向けられている。 「(……ああ、僕ここで死ぬのか)」 先ほどまで死にたくないと感じていたが、今は死んでもいいかと考えていた。 既に彼の人生は、終わったようなものだ。 アパートを追い出されたのも、家賃もまともに払えずに追い出されただけに過ぎない。 まったくもって、救われない人生だ。と妹子は嘆いた。 そして、銃声が響く。 だが聞こえたのは目の前でははなく、向こうの方だった。 「っ!」 男たちは、銃声のした方向に目を向ける。妹子の事を無視して。 「……?」 それにつられて、妹子もそちらに目を向ける。 そこには、一人の人物が居た。 子供のような背丈で、綻びたローブを纏い、片手にライフル銃を握っていた。
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