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アイツ、颯ちゃんって呼ばれてるんだ。
重たいを腰を持ち上げ、床に転がったペンを拾いに行く。
私も颯ちゃんって、呼んでみようかな。
ペンを拾うと、そのペンを顔の前に持ってきて彼に見立ててゆっくりと口を開く。
「……颯ちゃ……」
掠れた低い声が出た。
彼女の声はもっと高くて透き通っていて、可愛らしい声だった。
私とは大違い。
はは、ばかばかしい。情けない。
何をどうしたって、あんな可愛い子にこんなおばさんが太刀打ちできっこないのに。
でも……。
彼女は、最近颯ちゃんが構ってくれないと言っていた。
彼は、彼女と変わりはないと言っていたのに。
もし、彼女の言っていることが本当だとしたら、それは私がいるから?
自分の都合のいい考えが頭を過って、そこまでして私は彼にしがみついていたいのか、と自嘲が漏れた。
彼を独占したい。
私だけのものにしたい。
彼と彼女の間に後から割り込んだのは私の方なのに、こんなことを思うなんてサイテー。
叶わぬ夢なら、希望なんて持たないほうがいい。
希望が切望に変わった時、立ち直れなくなる。
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