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次の日の朝、珍しく彼が朝イチでやってきた。
彼が保健室に来るのは昼休みが多いから。
それに、いつもの「もーもちゃん」という陽気な挨拶もない。
「あら、朝から来るなんて珍しいわね?」
「ももちゃん……」
今にも泣きそうな彼の顔に、嫌な予感が頭を過る。
「何……?」
続きの言葉を聞くのが物凄く怖い。
彼が何を言おうとしているのか、彼の顔を見ればなんとなく想像がついたから。
長い長い沈黙の後、彼はゆっくりと口を開いた。
「俺、もうここ来ないわ」
やっぱり。
昨日、彼女に保健室に行かないで、とでも言われたのだろう。
想像は安易についたが、心臓が鷲掴みされたような痛みが走る。
目頭が熱くなる。眩暈がする。息が出来ない。
それでも。
「そっか、それが一番よ、彼女を大事にしてあげなさい」
一生懸命笑顔を作って声を絞り出した。
「ごめんね、ももちゃん」
彼は私の言葉に小さく頷いてそういうと、保健室を出ていった。
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