イタミ

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“もうここには来ないわ” 頭の中で、耳の中で、何度も何度も繰り返される。 そっか、もう来ないんだ。 いつかこうなることはわかっていたのに、彼の言葉は覚悟していたより深く私の胸を抉った(えぐった)。 ガクガクと足が震える。唇が震える。 瞼の奥が揺れて視界がどんどん歪んでいく。 自分の中でドクドクと流れる血流が聞こえてくる。 終わってしまった。 途端、一粒の涙が床に落ちた。 一粒流れてしまったら次々と涙が出てきてしまって、私は床に両手をついて前かがみになって泣いた。 体中の力が入らなかった。 片手で拭っても拭っても涙の量が勝ってしまう。 最近、泣いてばっかり。 歳をとると、涙腺が緩むって本当なんだ。 あーあ、楽しかったのにな。 彼を失ってみて、私の中でこんなにも彼の存在が大きかったんだって気付いた。 はは、今更だよね。 ここは保健室。 私は養護教諭。 彼は生徒。 校内ですれ違っても、目も合わない、会話もしない。 それが、私と彼の関係。
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