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――あれから一か月が経った。
彼は保健室へ来ていないし、校内ですれ違うこともなく、顔すら見ていなかった。
私はといえば、彼という最上級の美容液を失って肌は再び荒れ放題。
新しい出会いなど勿論あるはずもなく、今に至る。
「はぁ」
最近、気付けば溜息が出ている。
溜息をついたら幸せが逃げちゃうって言うけど、今の私はこれっぽっちも幸せじゃないし溜息のつき放題だ。
って、我ながら自虐的すぎる考えが浮かび、また小さく溜息を吐いた。
「あー、やめやめ」
辛気臭い気分を一掃したくて、保健室の窓を全開に開けた。
気が付けば6月も後半にさしかかっている。
満開だった桜は新芽が出て青々としている。
校庭を一面もも色に染めていた桜は、いつの間にか散ってしまっていた。
窓の桟(さん)に凭れかかり空を仰ぐと、梅雨時期特有のモワッとした湿った風が私の首筋を撫でていき、ゆっくりと目を閉じた。
瞼を閉じると、暗闇の中に今でもはっきりと彼の顔が見える。
彼が来なくなってから一か月も経つというのに、季節は春から夏へ移り変わろうとしているのに、私だけ前に進めずにいる。
あー、お見合いパーティーでも行こうかなー。
なんて、捨鉢な考えが思い浮かんだとき、コンコンと保健室の扉が勢いよく叩かれ、先生に肩を抱えられながら一人の女子生徒が入ってきた。
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