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――「紗耶香っ!」
悲鳴にも近い声で彼女の名前を呼んで、彼女に負けないくらい顔面蒼白な彼。
相川君……。
私に目もくれず、物凄い勢いで彼女に駆け寄る彼。
彼は、はぁはぁと全身で苦しそうに息をしている。きっと、ここまで来るのにも相当走ってきたのだろう。
「紗耶香っ、紗耶香大丈夫か?」
片手で彼女の額を触り、もう片方の手で彼女の手を握る。
彼女は、彼が来たことでホッとしたような表情を浮かべると、震えながらも小さく笑ってコクリと頷いた。
「もう大丈夫だからな」
そう言った彼の、彼女に向ける柔らかな声と優しい表情が胸に沁みた。
この光景を目にして、私はただ呆然と立ち尽くしていた。
「先生、こいつの親両方とも仕事で迎えに来れないと思うから俺が送っていくわ」
彼が鎌田先生に言うと、鎌田先生は「あぁ、そうか、じゃ相川頼むよ」と、彼の勢いにたじたじで返す。
彼が送るってことは、歩いて帰るってことだよね?
こんなに熱のある子を、いくら彼がついているからといって歩いて帰らすわけには行かない。
こんな私でも、ここの学校の養護教諭だ。
大袈裟だけど、生徒の健康は私に掛かっているのだから。
私情を挟むわけにはいかない。
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