イタミ

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ははっ……。 乾いた笑いが漏れる。 彼はすれ違い様に、チラリとも私を見なかった。 そっか、私と彼は養護教諭と生徒だもんね。 保健室以外では、私と話もしてくれないんだ。 保健室以外では、目も合わせてくれないんだ。 はは、そっか。 なぁんだ、そうなんだ。 私だけ、まるで彼に想いを寄せる同級生になったみたいにはしゃいで、馬鹿みたい。 はは……笑える。 彼には本命の彼女がいる。 わかっていたつもりなのに、割り切っていたつもりなのに、な。 私は大人だから大丈夫、と自分に言い聞かせていただけで、なぁんにもわかってなんかいなかったんだ。 校内で彼にシカトされただけで、こんなにも胸が痛いことを。 鉛のように重たい足を引きずりながら、なんとか保健室に入ると、そのまま扉に寄りかかり大きく深呼吸をした。 薬品の匂いが、やけに落ち着く。 この場所だけが、私と彼の場所なんだ。 この部屋の中だけが、私が彼に触れることを許される場所なんだ。 一粒だけ、涙が流れた。
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