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――カンッ!
訓練所に響き渡る金属音。
カイとヨハンさんの戦いは、なかなか勝負がつかずにいた。
一方が攻めると、一方は上手く避けるの繰り返し。うーむ。
「これは、リバ兄弟ということでよろしいでしょうか」
「ひぇっ!?」
俺が二人について思ったことを呟くと、近くにいたモブ騎士のお兄さんが突然喋り出した俺に驚いたのか、上擦った声を上げた。
反応が可愛かったので、きっと受けだよね。今度、旦那さん候補探しておこう。ふふ腐。
「あっ!」
「……今回は、私の勝ちのようだね。カイ」
どうやら、俺が妄想している間に勝負がついたらしい。
ヨハンさんが弾き飛ばしたカイの剣が地面に突き刺さっていた。
「お疲れ様ー。さすが、騎士隊長だね」
俺は二人の傍へ行き、声をかける。
「いえ、カイも腕を上げていましたので」
「はぁ……。勝つつもりでやったんだけどな」
「はは、まだ隊長の座は渡せないな。いずれそうなる可能性はあるが……私のように」
「…………」
一瞬、カイの表情が曇ったことに気づく。
恐らく、亡くなった前騎士隊長だったお父さんのことを思い出したんだろう。
「まぁ、騎士隊長になる前に副隊長になってもらわないといけないが」
「……おう、そうだな」
カイの表情に気づいていたヨハンさんは、お兄さんの顔でカイの頭を撫でていた。
――ズキンッ。
この痛みはなんだろう。
俺は二人を見つめながら、時折痛くなる胸を押さえていた。
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