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――と、思ったのだが。
「んぅ……ん?」
「!」
唇が触れるまであと1センチのところ。
ベルの瞼が微かに震えて、薄く目を開けた。
俺の体は驚きで固まってしまい、目を覚ましたベルとバッチリ視線が合う。
「……カ、イ……」
「…………」
「近い」
「あ、悪い……」
寝起きの潤んだ瞳に見つめられると、俺は顔を真っ赤にして慌てて離れた。
「カイ……お前」
あんな距離だったし、さすがに気づかれたか?
内心、焦りまくっていたが、悟られないように笑顔を浮かべて、言葉の続きを待った。
「……お前、視力落ちたのか?」
「…………は?」
「あれ……違うの?」
ぼんやりと寝惚けた様子で、こてん、と首を傾げられる。
俺は、違う意味で体が動かなくなってしまった。
「顔、近かったから……見えなかったのかなって」
「…………」
これは……。
「あれ? っていうか、なんで膝枕?」
ゆっくり体を起こすと、俺に膝枕されている状況に首を傾げて、ベルは不思議そうに尋ねてきた。
やっぱりというか、なんというか。
「気にすんなよ。……ほら、これを渡しに来たんだ」
「あ、クッキー?」
簡単にラッピング済みのクッキーを渡すと、予想通り嬉しそうに笑ってくれた。
「ふふ。ありがと、カイ!」
「どういたしまして」
笑顔でクッキーを持ち、軽く上目遣いでお礼。
……あぁ。俺らの王子様は、究極に鈍感で、どうしようもない無自覚なんだな、と改めて感じた瞬間だった。
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