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カイside.
「ベル!? ……あんた、何者だ!」
「…………」
走って行くベルを追いかけるが、途中の薄暗い路地裏から怪しい男が現れた。
そして、ベルの背後から口元に布を押しつけると、気を失わさせて肩に担いだ。
あまりにも自然で、悪意や殺気がなく、反応に遅れそうになる。
「その人を離せ」
腰元の剣の柄を握りながら、相手の様子を窺う。
黒い髪に真っ黒なコートとサングラス。
ヘンゼルとはまた違った全身真っ黒な男だ。
「……貴様に用はない」
「な――っ、ぁぐ」
「…………ふん」
一瞬。
いつの間に移動したのか、腹部への重い一撃とともに男は目の前に現れた。
「ベ、ル……」
「城へ戻って、知らせるがいい」
「ちくしょ……っ」
あまりの衝撃に目眩が起きて、地面に倒れてしまう。
男に担がれているベルを見て、俺が助けないといけないのに、と強く思うものの、体は言うことを聞いてくれない。
瞼が重くなる中、ベルの方へ手を伸ばした。
その手が届くことなく、男は背を向けて去って行ってしまう。
――……ベルっ!
無力な自分に悔しい気持ちでいっぱいになりながら、俺は気を失って目を閉じた。
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