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しばらくすると、コツン、という靴音が聞こえて、ここに向かって来ているのが分かった。恐らく一人。
犯人らしい人物が牢の前で立ち止まる。
「あー、起きたんだねぇ。おはよー……いや、こんばんはーかな?」
「うわぁ……」
俺より明るい茶髪、ハニーブラウンというのだろうか。月の光でキラキラしている。
身長は結構高そう。顔も、悪くない。
フォル先生には若干劣るけど、甘い空気も……。
誘拐犯もイケメンって、どういうことだね。俺に妄想しろってことかなっ! よし、任せなさい!
「お前のことは、立派に両方こなせるようにしてあげるからねっ!」
「え? う、うん?」
俺が突然喋りだしたことに驚いたのか、男は目を丸くさせた。
それから、牢の鍵を開けて中に入って来た。
さっきから気になっていたんだけど、男が持っているトレーには食べ物が乗ってるんじゃないかな? 何か良い匂いがするし。
「お腹すいたでしょ? 食べる?」
「食べる」
「ははは、警戒しないの? 毒とか入ってるかもよ?」
「俺が死んだら、どうなっても知らないよ? 特に俺の両親とか、執事とかさ」
男が近づいて来ると、俺は体を起こしながら、ニヤリ、と笑ってやった。
俺の傍には、誘拐犯よりも怖い人がたくさんいるんだよねー。あはは。
「それに、俺をどうにかしたいなら、最初からやってるよね?」
「……ふふっ。その通り」
「ねぇ、これ外してよ」
俺の答えにクスッと笑った男に向けて、縛られた両手を差し出す。
「え、やだ」
「掘られれば?」
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