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爽やかな風の吹く昼下がり。
アレクサンドル・ラナンは、悪友と共に賑わう繁華街を歩いていた。
黒髪を耳が見えるほどには切り揃え、かと言って、こまめに手入れしているようでもない。
艶やかさを失ってはいないものの、朝整えて出て来ましたとはお世辞にも言えない飛び散りよう。まあ簡単に言えば、寝癖、であるのだが。
それが、先ほどからの緑風に、右へぴょこん、左へぴょこん。
通りすがりの若い女性の失笑を買っている。
けれど、本人は一向に気にしている様子はない。
そんな自分の姿に無頓着な彼だが、その物腰から身分の高いことが窺えた。
行き交う人々と比べても、上質の衣を身にまとっている。
しかし、彼のことをそれ程気に留める者はいない。
ここは王国の中心部。国を統べる王の威光が行き渡る安全地帯。
富める者も貧しい者も、隔てなく憩うことの出来る場所だったから。
だから、アレクの他にも、さらに煌びやかな衣を着た紳士淑女が歩いていたり、かと思えば、麻で出来た質素な衣を着た女性もいる。
けれど、そんな彼らに共通している物がひとつ。
それは、幸せそうに輝く瞳だった。
貴族も、平民も。
きらきらと輝く瞳が、彼らの幸福を表していた。
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