第1章 王立図書館

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 今は仕事もひと段落する時間帯。  飲食店の前は、人混みでなかなか前に進めない。  老若男女。大人も子供も。  入り乱れての、空席の争奪戦。  群れる人々から頭二つ分飛び出したところからそんな光景を眺め、アレクは眉をしかめていた。 「おい、アレク。空いてねえよ。他回ろうぜ」  悪友の一人が言えば、少し長めの黒髪を掻き上げながら、アレクは首を横に振る。 「いいや。俺は今日、ここの炙り肉を絶対食べるって、決めて来てんだ」 「アレク。そんなことを言っていたら、いつになっても昼飯にありつけませんよ」  先ほどとは別の男が非難の声を上げた。  こちらは少し茶色味がかった短髪。アレクほどではないが、上質の衣を身にまとっている。 「だから、何でお前がここにいるんだよ。ファリス」 「何でと言われても。私はアレクの側仕えなんですから、仕方ないでしょう」 「城下に出るときは遠慮しろとあれほど……」 「まあまあ、アレク。ファリスの心配性は今に始まった訳ではないんだし」  笑いを含んだ声で言ったのは、もう一人の随行者。  こちらは正真正銘の悪友である。  アレクの肩に腕を置き、もたれかかっている。  アレクと同じくらいの背の男は、髪の色もまた、同じであった。  しかし、容姿は全く違う。  アレクがすっきりとした顔立ちなのに対し、彼は彫が深く、いかつい。  左の頬に、一筋の古傷があった。  見れば、腰には太刀を帯びている。 「ウォルフ。馴れ馴れしいぞ」  そんな彼に、ファリスは不機嫌な声をかけた。 「ファリスの生真面目ぼうや。細かいこと気にしてると、もてねえぞ」 「あなたがアレクの随行を許されているのは、剣の腕を見込まれてのことだということを忘れてはいけない」  ウォルフは肩をすくめ、「お堅いことで」とぼそりと呟いた。  そんな二人のやり取りは、半ば日常と化している。  アレクはさして気にした様子もなく、眼前に並ぶ行列の向かう先を眺めていた。  行列はいっこうに短くなった様子もなく、まだまだ目的のものまでの道のりは長いようであった。  
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