1人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女、ハルカと出会ったのはある晴れた桜の木の下だった。
俺は会社に早く出勤して済ませなければならない仕事があって、たまたま普段よりも2時間程早く家を出た日のことだった。
彼女はまだ朝早く肌寒い中、一人でヴィオラを弾いていた。この辺りは閑静な住宅街で本来なら騒音にもなりうるのだが、彼女の奏でる音があまりに綺麗だったため通りがかる通行人は誰一人として迷惑そうな顔を向けはしなかった。むしろ彼女を遠巻きにして足を止めてこっそり聞いている者もいるくらいだ。
背筋を凛と伸ばして綺麗な黒髪を風に舞わせながら、彼女は一心にヴィオラを奏でていた。天使だと、思った。こんなメルヘンな思考を持っているわけではないのだが、柄にもなく心からそう思った。
それから仕事を思い出して会社に向かったのだが、ほんの少しの間だったのに彼女の姿は僕の心に鮮烈に焼き付いていた。
「逢坂!ここ間違ってるぞ!こんな初歩的なミスをお前がするなんて珍しいな」
嘘だろ...この俺がこんなミスするなんて...
結局朝に仕上げた仕事は彼女の姿と彼女の奏でる音を思い浮かべていたせいで身が入らず、上司に怒られ同僚には疲れてるんだなと心配され、散々な一日だった。
最初のコメントを投稿しよう!