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「…口移しで食べさせてもいいんだよ」
「!…………無理矢理キスはしないって」
「口移しとキスは違うよ」
そんなの屁理屈だ。
俺にしてみれば、口移しの方が気持ち悪いぐらいだ。
俺は渋々箸を手に取り、ご飯を口に運んだ。
「なんだ、こっちは食べてくれないんだ?」
「そんなことされるんだったら自分で食べる」
「僕は全然構わないんだけどね」
それでも俺が食べ始めたのを見て、柊は安心したように食事を再開した。
無言での食事の中、早々に食べ終えた柊は手を合わせて「ごちそうさま」と言うと立ち上がった。
「それじゃあ輝ちゃん、行ってくるね」
「……?」
「学校だよ」
「え、」
学校って……まさか、学園のことか?
「僕はまだ教師として勤めてるからね。今日も学校があるんだよ」
「……俺がここにいるんだし、もう行く必要もないだろ」
「僕もその意見には同意したいところだけど…。契約は3カ月だからね。あとひと月ほど勤務しなくちゃならないんだ」
柊はぐっと伸びをすると、ポンポンと俺の頭を軽く叩いた。
「だから、いい子にして待ってて」
俺に手を払われる前に退けると、柊は「行ってきます」と言って部屋を出て行った。
てっきり、1日中ベッタリ一緒にいると思っていたため、拍子抜けした。
昔の柊なら仕事なんて放り出して、俺のことを監視でもするはずだ。
でもあの時みたいに拘束なんてされないし、自由に動ける。何より、日中はあいつがいない。
柊がいなくなった途端、急に腹が鳴りだしたため、俺はご飯を食べた。
普通に美味しい。
そうだよな…これ作った人に罪はないんだし、ありがたくいただかないと。
さすがに食べきるのは無理だったので、満足したところで手を合わせて「ごちそうさま」と言う。
するとメイドが片付けに来た。
「輝様、隼人様は19時には戻られると思いますので、夕食は隼人様とご一緒なさって下さい」
「はい…」
「昼食ですが、12時前にお部屋にお迎えに行きます。それまではどうぞごゆっくり」
深々と一礼されて、俺も何となくお辞儀する。
もうここにいても仕方ない。
俺は部屋から出て、自室に向かうことにした。
部屋に戻ると、ベッドに倒れ込む。
何もすることがないって、逆に疲れる。
携帯を触ろうとして、どこにもないことに気が付いた。
そういえば……昨日俺が持ってた手持ちの鞄って、どこに行った?
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