急激な加速

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ポタ、と段ボールの上に雫が落ちた。 「………あれ」 俺の涙だった。 何で俺…泣いてるんだろう。今別に、そんな気分でもなかったよな? 再びポタリと涙が一粒、落ちる。 「なんで…」 溢れてくる涙を手で拭うが、次から次へと溢れてくるため間に合わない。 俺はティッシュを取って、目に当てた。 今感傷に浸ってる場合じゃないだろ。 まだ諦めたわけじゃない。俺はまだ、柊に負けてない。 なのに何で泣く必要がある。 これはあの男を完封したときの嬉し涙として取っておくべきだろ。 そう思うのに、涙は止まらない。 もうこの学園に戻って来ることはないのかと思うと、どうしようもなく悲しくなった。 あの男に勝ったとしても、退学したという事実が取り消せるわけではない。 俺は思った以上に、この学園に対して愛着を持っていたようだ。 チーン、と鼻をかみ作業を再開する。 駄目だ。今泣いてしまっては、放課後に一樹と会ったときに目が腫れているのがバレる。 この学園に戻ることはないということは、考えないようにしよう。 放課後、俺は大量の資料を持って生徒会室に向かった。 曲がり角を曲がった瞬間、人影がニュッと現れて避ける暇もなくぶつかってしまった。 「うわっ」 反動で資料の山がぐらつく。 バサッと落ちた資料に、俺は頭を抱えたくなった。 「すみません」 「ごめん。ひぃだって分かっててわざとぶつかった」 「…!櫻李」 しゃがみこんで一緒に資料を拾ってくれる。 「ひぃの匂いがしたから…」 「そうですか…」 櫻李の嗅覚に関してはもう突っ込むまい…。 「ひぃ、今日学校来てなかったよね」 「あー…まあ、あまり学校行く気分じゃなかったんで」 昨日までのことがありますし、と言うと、櫻李の周囲の温度が急に下がった気がした。 「ああ…あれね」 「そういえば…風紀が犯人捕まえてくれたんですよね?ありがとうございます」 「あんな奴……殺しときゃよかったって思う」 こんな状態の櫻李に殺すなんて言われたら洒落にならん。怖すぎる。 「いや…違うな。あの胡散臭い男を吊し上げたらいいんだ」 「柊のこと…ですか」 「当たり前でしょ」 全部あいつの仕業なんだから、と櫻李は拳をドンと壁に当てた。 ミシ…と壁に蜘蛛が貼りついたかのような小さなヒビが入る。 え、どんだけ
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