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「泣いたって…」
「ひぃ、泣いたんでしょ」
何でだろう。
目は腫れてないし鼻水だって出てないのは確認済みだ。
「何で…」
「何となく」
何となくと言ってる割に、確信めいた物言いだけど…
「大したことないですよ…」
「俺に嘘つくの?」
「嘘だなんて」
そこまで言うと、櫻李は足を止めた。
そしてあまりにも冷たい視線を俺に向ける。
その人を殺せそうな瞳にゾッとした。
「ひぃが元気ないのは分かってる。それをごまかそうとするなんて…そんなに俺に隠さなきゃならないことなの」
「………っ」
櫻李の、全てを見透かしたような言葉と瞳。
その目に射抜かれ、俺は言葉を失った。
「何で助けを求めないの。俺じゃあ心もとないから?」
「そういうわけじゃ…!」
「それとも、言いたくても言えない何かがある?」
「ち…がう…」
図星を突かれて、言葉に詰まる。
「……ひぃはさ、優しすぎるんだよ」
櫻李は前を向き、再び歩を進めた。
「人のこと考えすぎ。もっと自分を優先してもいい」
「別に人のこと考えてるばっかじゃないですよ…。特に最近は、俺自身大変ですし…」
「そうだね。でもそこまで追い詰められてても、ひぃは完全に自分のことだけに集中してないように見える」
何かあったの、と櫻李は聞いてきた。
「…………」
櫻李なら、言ってしまってもいいだろうか。
そんな思いがよぎる。
櫻李の家なら少しの圧力で潰れるようなところじゃないし、頼れるかもしれない……
そこまで考えて、俺は自身の醜さに嫌気がさした。
この期に及んで何を考えてるんだ俺は…
もう決めたことだ。
ここで柊を拒絶してしまえば、この後何が起こるか分からない。
それこそ、一樹がこの学園から…もしかしたら社会的に末梢されかねないんだ。
「櫻李、心配してくれてありがとうございます。実は、どうすれば噂が消せるんだろうって悩んでました。でも風紀が犯人を捕まえてくれたし…問題は解決したので、大丈夫です」
「……………ふうん」
信じたかどうか、それは問題じゃない。
俺がこれ以上言わない意思を示す。
それだけだ。
「今度ひぃに何かあったら…犯人は病院送りどころじゃない。半殺し……もしかしたら殺すかもね」
これは、明らかに牽制だった。
明日、俺がいなくなったことを知れば…櫻李は荒れてしまうのだろうか。
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