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なんだかんだ、柳橋くんもこの微妙な空気を何とかしたいらしく、いつものように厨二でその場を和ませようとしてくれた。
こんなときにも厨二の彼は、逆に俺にとって救いかもしれない。
ガタッと累が無言で立ち上がった。
柔らかくなりつつあったその場の空気に緊張が走る。
「……俺、ちょっと外に行ってくる」
「おい累………」
一樹が引き留めようと声をかけたが、累はそれに答えようとせず足早に生徒会室を出ていってしまった。
「あー……。累もあれで、意地張ってるだけなんだって」
俺にチラチラと視線を送りつつ、その場を取り持つように言う。
「…累の反応は、当然のことだ」
結局俺が男か女か、本人の口から聞けず曖昧なままで事件は解決して。
どう見てもあの写真はガセには見えないし、俺が女だという話は濃厚だった。
けれど不自然に犯人が見つかって、生徒たちも混乱している。
累も例外ではない。
昨日俺にぶつけた言葉をどう消化していいのか分からないのだ。
「……心配するな。何とかする」
こちらを見る生徒会メンバー一同に、俺は眉を下げて笑った。
ああやって俺に本心でぶつかって来てくれたんだ。
それほど、累は俺を大切な存在として認識してくれていたということ。
それこそ、昨日の言葉通り恋心を抜きにしてもだ。
だったら俺は、最後ぐらいその思いに応えたい。
女かもしれない、今まで騙してきたかもしれない俺という存在を受け入れようとしてくれていた。
それだけでも俺は、とても救われた。
今や累は王道転校生として機能してないけど…
王道なんてなくても、累はその人柄で十分人を惹きつける魅力がある。
「一樹…この資料、今週中にでも目を通してもらえるか」
先程櫻李が持ってきてくれた資料を指差す。
「この量をか…?」
嫌なものでも見るように資料に視線を移す。
確かに、自分の業務もしながらこれほどの量の資料に目を通すとなると、大変な労力が必要だ。
「だったら俺が手伝いますよ!」
輝先輩のためなら!とオレンジくんが嬉々として立ち上がった。
この子の忠実ワンコっぷりは労働も厭わないというのか…
「ああ…大丈夫だ。一樹に見てもらう必要があるから」
「えぇー…」
「ありがとう、トシ。またトシには専用の仕事振るから」
「俺専用の仕事…!」
専用という言葉にオレンジくんは目を輝かせた。単純で助かった。
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