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初めは誰がいるのか分からず身構えた先輩だったが、俺だと分かると脱力した。
「なんだ山田か…」
「そのギャップはむしろ生かせばいいと思いますけどね…。隠すなんてもったいない」
「テメェの場合はそのギャップを生かしたところで靡かねぇだろ。だったら意味ないな」
「俺だって少しぐらいキュンキュンしますよ」
「真顔で言われても説得力ねぇんだよ」
いい加減俺に堕ちろよ、と清和先輩はコツンと俺の頭を小突いた。
にゃぁ、ともう一匹の猫が姿を現し、清和先輩に駆け寄る。先輩の愛猫であるモコだ。
先輩はすかさず抱き上げ、頭を撫でた。
モコは気持ちよさそうにゴロゴロとのどを鳴らす。
するとクウも物欲しげに鳴いたので、俺が抱き上げた。
満足げににゃあんと鳴く。
「…で、どうした?ひでぇ面だな」
「そんなことないでしょ」
「この世の終わりみてぇな顔してんぞお前。俺に慰めてもらいに来たか?」
核心をついてくるが、それでいて冗談口調なのが俺にとって救いだ。
そこのところ、清和先輩はよく分かっている。
「……犯人、捕まったみてぇだな」
「ですね」
「あいつの差し金か…?」
「そう思います」
清和先輩は憂鬱そうに息を吐いた。
「…俺がミスした」
ポツリと、独り言のように清和先輩は言った。
「俺がもっと緊張感持ってれば、情報は持っていかれなかった」
「…何言ってるんですか。もしあのとき上手く情報守ったとしても、柊は絶対に諦めませんよ。必ず狙った獲物は仕留める男なんですから」
「俺があの男に負けるってか?」
「否定はできませんね」
「チッ」
不機嫌そうに大きく舌打ちする。
あの男を前に、今まで守ってきたこともすごいと俺は思うけど。
「まあ、今回は完全に罠にかかった俺の負けだ。それは認める。……でもな、次は絶対負けねぇ」
絶対的な自信に満ちた声だった。
……うん。俺もそれを信じてる。清和先輩なら…きっと、やってくれる。
「それにしても、何の風の吹き回しだ…?犯人を曝すなんて。あのままいけば、いずれお前の性別に関しては露呈しそうなもんだったのに」
「…俺にも、よく分かりません。あの男の行動は本当に理解できない…。いや、したくもありません」
本当は知っている。
今回の行動の理由は、火を見るより明らかだ。
けれど、そんなこと微塵も知らないというように俺は首を傾げた。
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