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「お前今日、いつもより30分遅く生徒会室に来いよ」
「遅く…?」
いつもなら、最後の授業が終わってすぐに生徒会室に向かう。
仕事が山積みで、油を売ってる暇などないからだ。
けれど、会長が言ったのは遅れて来いということ。
「何かあるんですか?」
「いいや。俺の気分だ」
「………………」
何てふざけたことを、と言ってやりたいところだが、この人なら言いそうだ。
「……わかりました。30分遅れて行ったらいいんですね」
「何だ、やけに素直だな」
「もっと突っかかって欲しかったんですか?」
「物理的に突っかかって欲しかったな」
ほら来い、と腕を広げられ、俺はシラケた視線を送った。
「何だ、可愛くねぇな」
「会長の前で可愛くありたいと思いません」
何か危なそうだし。
その後黙々とご飯を食べ、歯磨きをする。
「山田、ネクタイ結んでくれ」
「なんでネクタイないんだろうって思ってたら……。ポケットに入れてたんですか。てか自分でやってくださいよ」
「新婚気分を味わいてぇだろ?」
不敵な笑みを浮かべる会長だが、俺は無視して歯磨きを続けた。
「おい、何無視してんだよ。この俺様が直々にネクタイを結ばせてやろうってんだぞ?」
「久しぶりに俺様かつ自意識過剰っぷりが出ましたね。言っておきますが、会長のネクタイを結べることを光栄に思ったことはありません」
「釣れねぇな」
「何を今更」
水で口の中を濯(ゆす)ぎ、顔を洗う。
そしてタオルで拭いて顔を上げると。
鏡越しに、ネクタイを差し出す会長が見えた。
「……まだ結んでなかったんですか」
呆れていると、会長は俺にネクタイを押し付けてくる。
「何言ってんだよ。山田が結んでくれんだろ?」
「…………」
ため息をついて、ネクタイを手に取った。
「会長、楽しいですか?」
「ああ、楽しいな。お前の反応が」
「でしょうね…」
俺の反応全てを楽しんでいるように見える会長だったが、案の定面白がっていたらしい。
よし、結べた。
鞄を手に取って玄関へと向かう。
取っ手に手をかけたところで。
「輝」
「!」
会長に名前を呼ばれ、咄嗟に上を向いた。
チュ
「!!?」
「学校行くか」
瞼に軽くキスを落とした会長は、それはそれはもう清々しい笑顔を浮かべた。
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