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「じゃあ、こっちを受けるんだな。仕事をしない奴に飯は無いぞ」
レイヴンと呼ばれた金髪の青年は、厳しい宣告をする。
レムの表情が硬直した。
驚愕とも、恐怖ともとれる絶妙な表情だ。
「え、いや、それわ、困るんじゃないかにゃあ、レイヴン兄やん?」
「じゃあ、」
レイヴンが最後まで言い終わる前に、レムは両の手を挙げた。
誰もがわかる降参の合図。
「はいはい、わかりましたよ。やるよ、やりゃあいいんでしょ?」
それを見て、ニヤリと笑うレイヴン。
ーーわかればよろしい。
眉目秀麗な男のその裏に隠された黒い部分が一瞬だけ顔を覗かせる。
「お待たせしました、ビクトール氏。お話を続けましょうか」
ゾッとするほどの早さでその黒い面を押し隠したレイヴンが、対面に座る小肥りの男に目を向けた。
「あ、ああ」
今だ吹き出す汗をハンカチで拭き取りながら、ビクトールは小さく頷く。さながら、豚の首振り人形のようだ。
「私たちの地区は、吸血鬼に支配されている」
額に浮かぶ冷や汗ともつかない汗を拭き取りながら、アドリアーノ地区の地区長ビクトール・ロワーノは、語り始めた。
「奴らが町にやってきたのはほんの数ヶ月前の事だ。誰の仕業か知らないが、奴らを町に”入れ”おった。それまでは「十字の結界」で護られておったものを、物がわからぬ愚か者(フール)めが町を壊滅の危機にまでおいやりおったのだ!」
ビクトールの言葉には、本気の怒りが込められている。
こめかみに今にも血管が浮き出してきそうな程の形相をしているが、分厚い肉のせいで、血管が見えることはない。
「昼の町はゴロツキが闊歩し、夜の町は吸血鬼の恐怖に支配されておる。このままでは町の発展はおろか、衰退するばかりだ」
怒りの表情とともに、哀しさのような表情もビクトールは浮かべる。
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