開幕のベルはまだ鳴らないーOne Week Agoー

9/15
前へ
/22ページ
次へ
もし他の人間がその様子を見ていたら、本気で町を心配している、そう思っただろう。 しかしーー 「綺麗事はいいんだよ、オッさん。本音を言えよ。このままじゃ、”オレの豪勢な食費を賄う税金がとれなくなる”ってな」 神懸かった美脚を机の上で組んでふんぞりかえりながら、レムはビクトールの発言を鼻で笑う。 「権力者が綺麗事言ったところで、結局は偽善にしかすぎねえよ。汚くても本音を言えよ、本音(マジ)なとこをさ」 その顔に浮かぶ嫌悪感を隠す事もせず、レムは言葉を吐く。 「私たちが必要としてんのは、事象と対価。現実起こってる事象に対して解決時の対価を正確に算出すること。それ以外、あんたの話を聞く意味はないんだよね。対価が払えないなら依頼は白紙さ」 なっ! と、ビクトールは息を呑む。 それは心外な事を言われたからか、あるいは、 「図星ってか?まあ、驚きゃしねーよ。こんな世の中”表”と”裏”が無いことの方が気持ちが悪い」 「私は!」 言いかけた言葉を、レムは机を脚で叩いて遮った。薄ピンクに染まった塵の山が崩れおちる。 「何度も言わせるな。欲しいのは”事象”と”対価”だけだ」 そこにあるのは怒り。 そして、殺意。 戦闘とは程遠い存在のビクトールでさえ、直感で感じられる程の”意志”が、彼の口を封じる。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加