開幕のベルはまだ鳴らないーOne Week Agoー

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「数ヶ月前から、ウチのギルドのヤンチャ坊主が帰ってきてねーんだよねぇ。こりゃあ、キナ臭いよなあ。だってよぉ、知ってたかいオッサン?」 卓上に乗せた脚を組み替えながら、レムは 蠱惑的に嗤う。 「『ハーメルンの笛吹き』は、子供攫いのプロフェッショナルだぜぇ」 「ーーーー!?」 レムの言葉にビクトールは息を呑む。勝負はこの時点で既についていた。レムは最後の一手を叩き込む為、容赦なく言葉を綴る。 「貧困層の子供達は、裏市場じゃ高値で取引されてる。ガキの頃から意識や考えを刷り込む事で、どんな人間にも育て上げる事ができるからな。特に”種族過密地域”じゃ、如何に自己種族にとって有利な考え方を教え込むかを競っていやがる。そーいえば最近、アドリアーノの一部の貧困層出身者が何人か”謎の成功者”として取り上げられてるニュースを読んだな。さて、この謎の真相や如何に?」 「そ、それは」 「吸血鬼ってのは、優秀な種族さ。文化、思想、技術力、どれをとっても超一流って言えるね。だけどそれ故に、プライドは激高(げきたか)。自分達のやり方に否定的な奴等とか、反抗的な奴等には容赦しない。それで幾つの地区が潰れたと思ってる?」 「だ、だからこそ君達の力を借りにきたのだ!アドリアーノを潰さない為に。護る為にな。あの様な野蛮な生き物に、蹂躙されてなるものか。やっとの事で区民の生活は安定してきておったし、教育も基盤が出来つつあった。労働の改善も進んでおったのだぞ!にもかかわらず奴等は!」 今までビクビクと怯えていた首振り人形が、レムへ向けて反撃に出た。何かがビクトールの逆鱗を刺激したらしい。 レムは少し驚いた様子で目を見開いた。 「豪勢な食事の為と言ったな、小娘。ああ、そうだその通りだよ。豪勢な食事を区民全員が食べられる。そんな地区を目指しているのだよ、私は!貧困地域で産まれ育った者は、貧困地域での生き方しかできないのだ。であるならば、”貧困”そのものを社会から排除せねばならん。それは思想であり、思考であり、格差だ。『夢見る挑戦者』など必要無い。『堅実なる功労者』こそが、必要不可欠なんだよ!」 それこそがビクトールの究極なる理想。追い求める場所。 それを受け、レムは高らかに嗤う。
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