開幕のベルはまだ鳴らないーOne Week Agoー

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3 紅色の少女が、新たな依頼を受けているのとほぼ同時刻。エルドラドから約30キロほど北西に進んだ辺りに存在する「仄暗い森」の中を、一人の女が進んでいた。 不純物の混じらない黒檀の様な髪に、透けるように白い肌。そして、薔薇の様に艶めく唇からは時折微かに息が漏れる。 これだけ聞くと「とある物語」の主人公を嫌でも連想させられるが、しかしそれ以外の部分が”問題”であった。 草を掻き分けて進む下半身は、ミリタリーパンツにミリタリーブーツの組み合わせ。上半身は黒のキャミソールの上からミリタリーコートを右半身だけ被せる形で着こなしている。 さらに、無防備ともとれる様に肌蹴た左の二の腕には、林檎と蛇を象ったタトゥーが彫られていた。 道塞ぐ草木を掻き分けながら、女は鼻唄交じりに森を進む。 「歌を忘れたカナリアは後ろの山に棄てましょか。いえいえそれはかわいそう~」 その様子はまるで散歩の様でもある。 無邪気で、無防備に、それでいて躊躇いなく森の奥へ奥へと向かっていた。
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