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それは声と呼ぶには余りにも無意味な、しかし音と呼ぶには余りにも意思を持ちすぎた「叫び」であった。
甲高いその叫びは、空気の振動となって森を駆ける。
その瞬間、今まで暗く、湿った空気が漂っていた森に一陣の風が走ったかの如く、その雰囲気がガラリと変わった。
光量が増えた訳ではない。
湿度が下がった訳でもない。
にもかかわらず、森の中に凛とした空気が”蘇って”いた。
ミリタリー姿の女は、そんな今までとは全く違う空気を、鼻から大きく吸い込むと、満面の笑みを浮かべる。
「これこれ!これがマイナスイオンってやつだよ!お肌にも健康にも良いといわれる、やつなのだよ」
そんなことを上機嫌に言いペチペチと自分の頬を叩きながら、無駄に空気を吸いまくっていた女の背後で、ガサリと音が鳴った。
焦りなど微塵も見せる事無く振り返る女。
その手には、いつの間にかサバイバルナイフが握られている。
「出てきにゃさいな、マジョマジョ!このイヴ様が直々にお灸を添えにきてやったのだよ!」
イヴと名乗る女は、クルクルとナイフを回しながら、その大きな瞳もグルグルと回す。
ガサガサと音を立てながら、草をかき分け”それ”は姿を現した。
銀色に輝く毛並みに、爛々と光る金色の瞳。
体調は2メートルをゆうに超える巨大な狼の姿がそこに在った。
「全く、小娘がやってくれるじゃないか」
巨大な狼はイヴの目の前で立ち止まり、その鼻先を眼前まで近づけると唸るように声を発した。
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