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花の香りにしてはあまりにも強い、しかし果実の香りにしてはあまりにも下卑た香り。
その香りに誘われるかのように、闇が形を持った。
「この”香り”は、君をさらに美しくする為のスパイスさ」
香りと同じ、甘すぎる聲が、女の背後の闇から染み出すように響いた。
驚いて振り返ろうとした女の身体を、闇がーー否、闇から溶け出すように現れた男が、背後からまるで抱き締めるように絡め取る。
女が気づいた時には、長く尖った爪が頸筋に充てがわれていた。
「こんな時間に、君のような”薫り”がふらふらと彷徨っていてはいけないねえ。僕のような”蝶”が間違って辿り着いてしまうよ」
耳元で囁かれる甘い聲。
脳髄に直接流れ込むような吐息が、女の思考を鈍らせる。
フードはいつの間にか取り払われ、白く細いうなじが露わになっていた。
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