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「いやぁ…なんとなくだよ。せっかくの、春休みだしね?」
当たり障りのない返事。
彼女がそれ以上の質問をしてこないことをみると、どうやら納得したようだ。
「あぁ…そうなんですか」
「うん、ついでにシンタロー君になんかご馳走して貰おうかなって」
それでも、微妙な顔のキサラギちゃんを笑わせようと、さらに会話を続ける。
が、それは何かの地雷だったみたいだ。
「お、お兄ちゃんにですか…?」
さらに、強張った顔で彼女は問いかける。
僕はその訳に、気付かない振りをして笑顔で答えた。
すると、彼女は一瞬呆けたような『えぇ…』と呟き、
「あ…どうしよ…お兄ちゃん、今"アレ"だし…それ伝えちゃいけない気がするし…でも…」
と一人考えこみ始めた。
…キサラギちゃんには、悪いけど家の中に入らせて貰うね。
早く、会いたいんだ。
「おじゃましまーす…」
未だに、ブツブツと呟いているキサラギちゃんの横を通り、家の中へと入った。
適度に清潔感のある、温かい雰囲気の家。
ふと、シューズクローゼットを見ると幼き頃のシンタロー君とキサラギちゃんの写真が飾ってあった。
よくみると、その写真にはいかにも幼い子供が書きましたとでも言うような、クネクネとした字で、"きさらぎ しんたろう" "きさらぎ もも"と書いてある。
恐らく、小学校に入るくらいの年齢だろうか。
「可愛いなぁ」
思わず、そんな言葉が出た。
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