第1話

6/6
前へ
/6ページ
次へ
「いやぁ…なんとなくだよ。せっかくの、春休みだしね?」 当たり障りのない返事。 彼女がそれ以上の質問をしてこないことをみると、どうやら納得したようだ。 「あぁ…そうなんですか」 「うん、ついでにシンタロー君になんかご馳走して貰おうかなって」 それでも、微妙な顔のキサラギちゃんを笑わせようと、さらに会話を続ける。 が、それは何かの地雷だったみたいだ。 「お、お兄ちゃんにですか…?」 さらに、強張った顔で彼女は問いかける。 僕はその訳に、気付かない振りをして笑顔で答えた。 すると、彼女は一瞬呆けたような『えぇ…』と呟き、 「あ…どうしよ…お兄ちゃん、今"アレ"だし…それ伝えちゃいけない気がするし…でも…」 と一人考えこみ始めた。 …キサラギちゃんには、悪いけど家の中に入らせて貰うね。 早く、会いたいんだ。 「おじゃましまーす…」 未だに、ブツブツと呟いているキサラギちゃんの横を通り、家の中へと入った。 適度に清潔感のある、温かい雰囲気の家。 ふと、シューズクローゼットを見ると幼き頃のシンタロー君とキサラギちゃんの写真が飾ってあった。 よくみると、その写真にはいかにも幼い子供が書きましたとでも言うような、クネクネとした字で、"きさらぎ しんたろう" "きさらぎ もも"と書いてある。 恐らく、小学校に入るくらいの年齢だろうか。 「可愛いなぁ」 思わず、そんな言葉が出た。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加