第一話

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 と、言うのもつい先日、時期外れの急な人事異動の内示を受けたため、通常業務に加え、担当している案件の引き継ぎやら何やらで、てんてこ舞いしているのである。  正直なところ、この内示を受けた時、私は早期退職を真剣に考えた。いや、実のところ今も考え中だ。全く、『仏のナギさん』とはよく言ったものだ。  私が断らないものだから、様々な雑務を頼んできたあげく、急な人事に対応できる人材が、『私』しかいなかったと言う、皮肉。まあそれでも、辞令の発効二週間前までには、何とか引き継ぎやら雑務やらを片付け終わり、ようやく自分の机や私物を整理できると、ほっと一息入れたとき、急に思い出したのである。  結局、『死亡案件』の現場に出た、 最後の事件になったあの日の事を。 「あれ? 警部。お一人ですか?」  私の、少し感傷的な気分を台無しにする能天気きな声の響き。顔をあげると、自身のお手製だろうか、可愛らしい弁当箱を広げながら、私の向かい側に座る新米の姿が。 「まあ、見ての通りだが?」  一年半続いた、こいつとのコンビもあと二週間か……。妙に鬱陶しいこの新米から、やっと解放される。
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