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朝から降り続く雨の音色が静かに響き渡る午後。
クロアが大急ぎで用意した湯槽(ヨクソウ)に浸かり、冷えきった身体を暖めたロアは、新たな普段着に着替えた上に厚手の肩掛けを羽織らされた姿で、居間にある数人掛けの長椅子のソファーに座り、足許の床で浅い小鉢の中のミルクを嘗めている聖獣の子供の様子を見詰めていた。
ロアが湯槽に入り体を暖めている間に、クロアによって汚れた体を綺麗に洗われ、乾かされた聖獣の子供。
真っ白なふわふわの体毛に包まれた小さな体に垂れた耳。ふさふさの尻尾と薄茶色の小鼻。翡翠色の円らな瞳。泥に塗(マミ)れている時は分からなかった何とも愛らしい姿で、小さな尻尾を左右に振りながら必死にミルクを飲んでいる光景に、無表情な筈のロアの面にも和かな眼差しが浮かぶ。
そうして暫くの間、ロアが聖獣の子供を視ていると、
「ロア、」
「ん?」
「これを飲んで、体を中から暖めろ」
ロアの濡れた服などを片付けていたクロアが戻り、湯気の立つ杯をロアに差し出して来た。
ふわりと柔らかく意識を包み込む、甘く爽やかなカモミールの香りが湯気と共にロアの鼻腔を擽る。
「これは?」
「カモミールの華水を温めて、蜂蜜を溶かしたモノだ」
クロアから渡された杯を両手で受け取り、不思議そうに見詰めるロアへ、クロアが簡単に説明する。
香石と云う花や香草の香りを法石にしたモノを使い、神水に香りを移した華水と呼ばれるモノを沸かし、蜂蜜を溶かした体を暖めるための簡単な飲み物。
「お前は逆上(ノボ)せ易いから、湯槽に入っただけでは体の芯まで暖まる事が出来ないだろう」
冷水を浴びる禊は好きなロアだったが、湯を使い、湯槽に浸かる湯浴みは直ぐに逆上せ上がってしまう為に苦手だった。
その事を当然ながら知っているクロアがロアへと用意した白湯。
ロアは初めて見る湯気の立つ杯に好奇心の宿る眼差しを向けながら、恐る恐る口を着けてみると一口、ゆっくりと白湯を飲み。
『ッ!?……体の中が暖かい』
飲んだ途端に甘く爽やかな芳香が体の中から広がり、じんわりと、まだ寒さの残っている体の芯を内側から暖め、緩やかに溶かして行く感覚に内心で驚いた。
気付けば、二口、三口と、ロアは杯の半分ほどまで白湯を飲み干し、
「気に入ったのか?」
クロアからの問い掛けに、素直に頷く。
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