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「気に入ったのなら良かった」
クロアはロアが頷くのを確認すると、白湯を飲み体の内側から暖まり始めた事で漸く、持続的な赤みが頬に差したロアへ安堵の溜め息を吐きながら、ロアの隣に腰を降ろす。
「それで、どうして聖獣の子供が居るんだ?」
そして、改めてクロアから切り出される、ロアが雨の中で聖獣の子供を保護するに至った経緯だが、
「寝室の窓から中庭を眺めていたところ、泥塗れの毛玉が居た故に保護した」
「けだ……ッ!?」
『毛玉ッ!?!?』
淡々としたロアからの説明。以前に、ロアが口にしたとんでもない一言にクロアは絶句した。
無意識に足許へと向かうクロアの視線。
もしかしなくても、クロアとロアの足許でミルクを嘗めている、真っ白でふわふわの、
『いや………、確かに毛玉にも見えるが……、』
聖獣の子供を見下ろし、クロアは何とも言えない心地になってしまう。
聖界では第7階層の聖域にしか存在しない聖獣。
聖域の外に存在する獣達とは違い、自然界の聖霊の化身として大人になれば、クロア達の言葉を理解し、時に天族、神族と同じ姿形を取る事も出来る、神聖なる獣。
それを見たままの印象で毛玉と呼ぶ事の出来てしまうロア。
「なんだ?」
「い、いや……、毛玉と云うのは…、名前なのか?」
クロアの戸惑う様子に気付いたらしいロアへ、聖獣の子供に本気で毛玉と名付けるつもりなのか、つい、クロアが確認してしまうと、
「一時的な保護で聖域の森に帰さねばならんモノに、名など付けられるか」
呆れたロアから応え。
名とは個を示す重要な言葉であり、個を名の示す存在に固定してしまうモノ。
その為、名付けは慎重に行わねば成らず、時に名付けた名が言霊として相手の存在を縛る事もあった。
何より、神族であるロアの言葉には強い言霊が宿っており、一時的な関係でしかない聖獣の子供に迂闊に名付ける事など出来ず、見た目の印象で呼ぶしかないロアの事情にクロアは何故か、内心でほっとする。
「…で、何故、聖域にしか居ない聖獣の子供が第6階層のここに居るんだ?」
気を取り直したクロアが再度、問い直すと、
「推測でしか答えられんが……、聖域の森には創世の時代に出来た次元の穴や空間の歪みが幾つか存在する」
「あぁ、」
聖域の聖殿を囲むように存在する森。
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