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創世の時代に創られ、聖獣達の棲処ともなっている神聖なる森の中には、創世の時代の名残として、場や存在が固定されずに正体不明のモノや次元の穴、空間の歪みに切れ目と云った不安定で危険な場所や存在が幾つか点在していた。
「おそらく、その穴に落ちたか歪みに入り込んだかのどちらかだ」
「成る程……」
一度落ちたり、入り込んでしまうと、一体、何処に繋がっているのか分からない次元の穴や空間の歪み。
最悪、魔界に落とされる事もあるらしいそれに呑み込まれたのならば、聖域にしか存在しない聖獣が、この場に居る事も納得できた。
「で、聖獣の子供を保護する為に中庭に出たと…、」
「そうだ」
「ロアまで泥に汚れていた理由は?」
「保護しようとした際に、濡れ草に脚を取られ転んだ」
歩行以外の負担が急激に掛かると膝から下の感覚が消え、暫くの間は立つ事さえ出来なくなるロアの両脚。
その為に、雨のせいで足許が不安定な草地に脚を取られ転んでしまい、立てるようになるまで、ロアは雨に打たれながら中庭に留まらねばならず、結果、泥と草に汚れ、体の芯まで冷えきった状態になるまで、室内に帰る事が出来なかった。
「だったら、何故、直ぐに俺を呼ばなかった……」
一度、感覚が消えた両脚が回復するまで、早くても30分。長ければ半日近く感覚が消えて戻らない事もあるロアの両脚。
いくら小雨と言っても30分以上も、雨に打たれながら外に居るなど考えられない天候。
「お前を呼ぶ程の事では無いだろう」
しかし、クロアからの指摘にロアが平然とそう応えた時、
「…………………………」
「?」
一瞬、クロアは黙り込み、
「杯の中身が冷えたな」
「クロア?」
「取り換えてくる」
「!?…ぁ……」
唐突にロアの持つ杯を引き取り、立ち上がってしまった。
その瞬間、ロアの胸に沸き起こる焦燥。
『また……、前と同じだ』
「クロア!!」
気付けば咄嗟にクロアの服を鷲掴み、
「…ぁ……お前………」
「違うモノが良いなら、違うモノを用意するが?」
「ッ!?……ぃ、いや、同じモノで良い…」
普段ならば優しい気遣いしか感じないクロアの言葉に、以前と同じ拒絶を感じ取り、その理由を問い詰める事が出来ずにロアは、クロアの服を掴んでいた手を放してしまった。
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