†弓張月†

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クロアの姿が雑用などの作業部屋に消えてしまうと、ロアは項垂れた様子でソファーに座り込む。 何故、クロアが急にロアを拒絶する態度をとったのか、 『たかだか雨の中、転んだ程度で呼べる訳がないだろう……』 クロアが急激に態度を変えた直前の会話を思い返し、ロアは内心で呟く。 実際には転んだ程度ではなく、その為に両脚の感覚が消え、雨の降り頻る中で動けず、体の芯が冷えきってしまうまで雨に打たれていたのだが…、 「転んだ程度でも、やはり……呼ばねばならんのか…?」 足許でミルクを飲み終わりロアの脚にジャレ付き始めた聖獣の子供を見下ろし、ロアは戸惑いの宿る声で問い掛ける。 『確かに私はクロアの手を借りなければ、転んだ際に一人で立つ事も出来ないが……、』 クロアを怒らせてしまった理由を考え、徐々に外れて行くロアの思考。 本当は全く違う問題がそこには存在しているのだが、ロアがそれに気付く事はなく、 「お前も……私が悪いと思うか?」 聖獣の子供に語りかけながら、ふわふわの毛並みの体を優しく撫でた。 ロアに遊んで貰えると思ったのか、聖獣の子供も体を撫でるロアの手にジャレ付き始め、柔らかく暖かな毛並みの手触りと無邪気な行動に、ロアは沈み掛けた気持ちを癒されながら、不意に朝からの不安が胸に蘇る。 そして、 もしも、このままクロアの怒りが収まらず、拒絶され続けてしまったら……? 『ッ!?』 ふと脳裏を過った考えに、全身が凍り付き、息が詰まる想いに指先が硬直し、微かに震えた。 それをどう感じ取ったのか、 「クゥン」 聖獣の子供が甘えた声を上げ、ロアの手に小さな鼻先を押し付けて来る。 「なんだ?……眠いのか?」 鼻先を押し付けられる感覚に我に返り、ロアは聖獣の子供に淡く微笑み掛け。 「ロア、」 聖獣の子供を見下ろして居たためにロアの視界には入らなかったが、作業部屋から戻って来たらしいクロアに呼び掛けられて、 「あぁ、もど……ッ…ん…」 クロアの声に応じ、俯いていた顔を上げると、ロアはクロアに唐突に口付けられた。 突然の事に驚くロアの意識を甘く爽やかなカモミールの香りが捕らえ、鼻腔を擽り、口腔の中まで優しく拡がってくる。 「んッ!?………んんッ……」 口腔を満たす、柔らかな液体とクロアの体温。
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