†弓張月†

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『甘い…?』 「ん…」 カモミールの白湯をクロアに口移しで流し込まれたのだと気付き、戸惑い抗い掛けるロアの顎先をクロアの指が捕らえ、更に深くなる口付け。 「ッ……ふ……」 ソファーの背凭れに背中を押し付けられ、軽く仰け反るロアの首筋。 含み切れなかった液体が唇の端から溢れ、滑(ナメ)らかな流線を描く顎を伝い、白磁の喉を滑り落ち、コクリ―と小さく喉を鳴らしてロアが口腔内の液体を飲み込むと、 「ハッ……ぁ……」 そこで漸く、クロアの唇が一度離れ、 「…ッ…んんッ……ん……」 再び、深く口付けられながら、ロアはクロアの腕に優しく抱き締められた。 先程まで胸に満ちていた不安が消え去る程の優しい口付けとクロアの体温。 「……ッ………ぁ……クロア………?お前……、甘味が苦手だろうが…ッ」 口付けから解放されると、ロアは乱れた吐息を整えつつ、甘く弛緩した身体をクロアの腕に委(ユダ)ね、呆れた叱責を飛ばす。 「…まぁ………その通りだが……、」 ロアの叱責を何処か力の無い声で認めるクロア。 ロアの視界はクロアの胸元に額を押し付けられている為に塞がれ、どの様な表情をクロアがしているのか分からなかったが、甘味を伴うモノとの相性が悪いらしいクロアは、甘いモノを口にすると酷い胸焼けを起こし、吐き気や気分を悪くする事をロアは知っていた。 「だったらッ…」 「反省と慰めを兼ねて…、俺はお前に辛い想いをさせたい訳ではないからな……、」 クロアを問い詰めるロアの言葉に重なる、クロアの口付けの理由。 「確かに俺はお前の言動に対して怒って居るが、だからと言って、お前を不安にさせたり、怯えさせたり…辛い想いをさせたくはない」 クロアが作業部屋から戻った時、ロアはクロアに気付いていない様子で聖獣の子供を相手にしながら、不安に満ちた悲痛な表情をしていた。 「怒っている理由はお前が自分で気付かなければ意味が無い。だから、教える事はしないが、それで俺がお前を嫌ったり、拒絶する事などは絶対に有り得ない」 「…ッ……ぁ…」 クロアの指摘が的を射ていたのか、腕の中でロアの体が小さく震える。 クロアに拒絶されたまま、嫌われるかも知れない恐怖心。 ロアが認めたくなかった不安の正体を、正しく見抜いていたクロアからの慰め。 ロアの為ならば、己の想いを殺して身を引く覚悟さえあるクロアの想い。
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