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身の内を苛む発熱に侵された意識を、降り止まない雨音が優しく撫でる。
―――――
雨音に誘われるように、ゆっくりと沈んで行くロアの意識。
過去の記憶の波の狭間を縫い落ちながら、辿り着いた記憶の先で、まだ明るく穏やかな性情であった14歳の少年、ロアはその日、生まれて初めて父、聖主に聖域の外に連れ出され訪れた、神殿組織の建物の中を神兵達に追われて疾走していた。
ニ年後に成人するロアの側近を募る布令を公に出す為に、父である聖主と共に訪れた第6階層の神殿。
『ここが、神殿…』
将来、ロアが聖域を出ることなく聖司官となり治める筈の神殿組織。
初めて直に眼にする神殿の建物内をロアは物珍しげに見渡しながら、始めは現聖司官であり、将来、聖司官の任を引き継ぐロアの師でもある遠縁の親戚、ロアが兄とも慕うレティス・A・ファーマと話し合いながら前を歩く父の後を付いて歩いていた。
たった一度、一日限りロアに許された聖域の外。
朝から父と共に元老院、中央組織と廻り、最後にロアが将来、筆頭となり治める神殿を訪れ、父がロアの側近を募る布令を出す最後の手続きを終えて聖域に帰れば、もう二度と訪れる事の叶わない場所。
そう思うと、
『もっと他の所も見て廻りたいけど…、』
不意に沸き起こる好奇心の衝動をロアは抑え、目の前を歩く父とレティスの様子を然り気無く窺った。
強く輝く黄金の髪と深い蒼水晶の瞳に強い威厳に満ち、正に神の化身と称される父、聖主と、肩まで伸ばした癖のない蒼銀の髪を緩く一つに結び、左肩に掛け、紫水晶の瞳に秀麗な美貌の青年であるレティス。
『父上は多分、許してくれると思うけど…、』
見た目の印象からすれば、聖主よりもレティスの方がロアには甘いようにも見えたが、
『………大兄君は絶対、許してくれないよなぁ』
実は聖殿の外に出る事の出来ない息子を想い、大抵の望みは叶えてくれる父よりも、喩え、聖殿の外に出る事の出来ないロアの事を気掛かりにしていても、礼節には厳しい一面のあるレティス。
次期聖主でもあるロアが一人で神殿の中を自由に見て廻りたいと言えば、二人がどの様な反応をするのか考え、ロアは諦めに近い小さな溜め息を溢した。
すると、
「?」
『あ…』
一瞬、チラリとレティスと話し合っている筈の父の横目とロアの視線が絡み合う。
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