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そして、
「え…?」
ほんの一瞬だけ、ロアに向けて浮かぶ父の微笑み。
『…今の……』
父の微笑みの意図を探るロアと、
「聖主様?何か、」
「いや、何でもない」
直ぐにレティスに呼び掛けられ、ロアから視線を逸らしてしまう父であったが、まるで、ロアの心を読んだような父のそれに、ロアは背中を押された心地になり、コッソリと二人の元から離れてたった一人、神殿の中を探索するために駆け出した。
そうして、神殿の中を見て廻る内に何と無く、身を隠しながら歩き回る事に飽きたロアは神殿内の警備を担当する神兵達に、わざと見付かり不審者として追い掛けられてみた。
父やレティスを困らせたい訳ではなく。ただ、本当に何となく、初めて経験する外の世界で14歳の少年らしく、最初で最後の忘れられない思い出作りに遊んでみたかっただけのロア。
『神殿って、こんなに神兵が居るんだ』
神兵達に追い掛けられながら、図面や文字、紙の上でしか見たことのなかった神殿内の広さや、そこに勤める者達の多さにしみじみと感心してしまう。
「待てっ!!」
「わわッ…」
後方からだけではなく、横合いの廊下からも飛び出してきた神兵を、なんとかロアは躱し、
『危なかった…』
どこかのんびりとした感想を胸に抱きながら自分を追い掛けてくる神兵達の間を摺り抜け。
気付けば、かなりの数の神兵達にロアは追い掛けられ、それでも、どこかのんびりとした焦りの無い楽し気な様子で更に疾走を続ける。
けれど、
「どうしよう…」
長く広い神殿の廊下を走り続け、ポツリと溢れる何とものんびりとした呟き。
言葉とは全く裏腹な、少しも困った様子の無い声で、逃げ切るには少々無理な人数にまで増えてしまった神兵達にほんの少し困り果て、一体、どうやって逃げ切るかロアは考え、
『体力ないんだけどなぁ…』
ふと眼に留まった行き詰まりの廊下。
このまま走り続けても、自分の体力を考えれば、逃げ続ける事にそろそろ限界かも知れない事をぼんやりと思い、敢えて、その廊下に入り込むとロアは急な加速を着け、
「んッ……とッ!!」
「はぁ!?」
目の前に迫った壁を蹴り上げ飛び上がると、壁に取り付けられている蝋台を掴み、更に体を持ち上げて、後を追い掛けて来た神兵達の目の前で、遥か頭上にある大窓の桟に軽々と乗り上がってしまった。
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