†十六夜†

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煙るような雨が美しい庭に霞みの膜を引き、サラサラと静かに降り頻(シキ)る。 空を撫でる雨音が聖司官専用室の中に淋しさを誘う静寂を引き入れ、寝室から中庭を望む窓辺に寄せられた大きめのソファーにロアは座り、読み掛けの本を膝の上に広げたまま背凭れの方を振り向いた姿勢で腕を背凭れの上に乗せ、凭り掛かり、雨に濡れる中庭の光景を見詰めていた。 一週間の七日目に当たる、休暇日。 普段は組織の指揮管理で忙しい各組織の筆頭に当たる役職者達も、一時的に役職を離れ、思い思いの一日を過ごす休息の日。 神殿筆頭聖司官であるロアもその一人であり、本来ならばクロアと共に恋人同士として過ごす筈なのだが、 「ハァ………」 『……遅い…』 無意識に、ロアの唇から零れる溜め息と内心の呟き。 ロアの傍らには、本来居るべきクロアの姿がなかった。 理由は、単に聖司補佐官でもあるクロアが、聖司官であるロアの代わりに話し合いの場に召集されているだけだったのだが、 『………何時まで話し合うつもりだ…』 クロアがロアの代わりに召集されて、既に約三時間。何時まで経ってもクロアが話し合いを終えて帰室してくる気配がない事に、待ちくたびれたような思いがロアの胸に過る。 半年後に行われる三年に一度の武道大会での、中央組織、神殿、元老院。聖界の三柱となる三組織合同の警備計画についての話し合い。 毎回の事ながらロアの従兄である中央組織筆頭、熾天使長ディフェル・A・カインからの警備計画案の提出が遅れ、休暇日の前日である昨夜に漸く、大会主宰を担当する元老院へ、警備計画案の提出が行われた事から急遽、休暇日である本日の午前中に各組織の代表、若しくは代表者の代理へと召集が掛けられていた。 とは言っても、まだまだ各組織から提出されたばかりの計画内容を互いに確認し合い、合同の警備態勢となれば不備となる計画内容の一部を調整する為の確認の話し合い。 その為に代表者の意思が伝わるのであれば代理の効く話し合いであるために、クロアがロアの代わり召集されていたのだが、 『大体、調整の不備が出ると云っても、大会当日の各組織の警備兵への伝令、伝達経路や配備の兵数の問題くらいの筈だ……』 毎回、問題として持ち上がる内容をロアは思い浮かべながら、なかなか話し合いを終えて帰室しないクロアに、自分も話し合いの場に参加するべきだったと思い始めていた。
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