90人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの、……あれ……?」
「このまま散策を続けますか?」
「え?……あ……、あぁ…ぅ、うん」
混乱する意識の中で、クロアに促されるままロアは素直に頷く。
『えぇと………私は確か……、』
何故、この場にクロアが居るのか、ロアは分からなかった。
「何故、お前が此処に……?」
「私はロア様の側近ですから、常にロア様のお側に控えて居ります」
「お前が私の………側近…?」
クロアの応えに浮かぶ疑問。
その側近を募る布令を出す為に、ロアは神殿を訪れていた筈なのだが、
『……クロアが………私の………?』
慣れた様子で自分を抱き上げ、散策を続けるクロアをロアは見詰めてしまう。
身体が触れ合う場所から伝わるクロアの体温が、不思議なほど身に馴染んで心地好かった。
まるで一つに溶け合ってしまいそうな程に、
「そっか……」
『クロアが私の側近になってくれたんだった』
クロアの腕の中が自分の居場所だと分かる心地好さに、ロアはクロアが自分の側近なのだと納得できた。
14歳のあの日、窓から飛び降り衝突しかけた相手ではなく、神兵達に追い掛けられている最中に、隠れていた樹の上から降り立った直後のロアと出逢ったクロア。
互いに言葉を交わす事なく、名前を知り合う事もなく、ただその場で互いの姿を認識しただけの出会い。
それでも、次期聖主であったロアの特徴を智天使長補佐の兄に聴かされ知っていたクロアが、ロアに一目惚れをして、再会する為に当時所属していた中央組織軍部智天、智天使長近衛官を退任してまで、次期聖主側近候補となり。
一年半の試験期間を終えて無事に次期聖主側近に選ばれ。偶然の出会いから二年後。主従の関係を持って二人は再会する事となった。
「私の側近はお前だったな、」
クロアが自分の側近である事が嬉しくて堪らず、ロアはクロアの首に腕を回して強く抱き着いてしまう。
――と、
『あれ………?』
トクリ―と脈打つ、ロアの鼓動。
『私は今、心……感情がある?』
何故、そう思ってしまったのか、クロアと再会した頃には既に失くしていたロアの心と感情。
最初のコメントを投稿しよう!