†朔†

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それが今はあると認識した途端に、 「ッッ!?!?」 『な……なに!?…!?!?……何でッ!?』 クロアの腕に抱き上げられている今の状況が、ロアは急激に恥ずかしくなり、 『…き……緊張、する……何故だ……!?!?』 普段は理解も自覚もできない羞恥心に真っ赤になりながら、 「ロア様?」 「ッ!!な、何でもないッ!!…こ、こっちをみ、見るなッ!!」 クロアの視線から逃げ出したくて、ロアはクロアの肩に顔を伏せてしまった。 ただの側近に対しては、持ち得ない感情。 恥ずかしくて、逃げ出したくて、けれど、ずっとずっと傍に居たくて……、 『か…顔、熱い………、私はこんなにもクロアの事が………』 ―“好き”― 失ったと思い込み、心の奥底に封じている言葉が、ロアの中に浮かび上がる。 ザァァァァ―と、風が一陣、強く吹き抜け、美しい庭園の花々とロアの髪を揺らし。 サクリ―と、下草を踏み締めるクロアの足音と、逸るロアの鼓動。 「ク、クロア!!」 「はい」 今なら、言える気がした。 「その……!!」 心と感情のない自分では伝えられない、愛情の言葉。 それを、 「あ……あのッ……私はお前を……ッ……」 ロアはクロアに告げようと顔を上げ、言葉を切り出しかけた途端に、ポツリ―とロアの頬を打つ水滴。 「え!?」 『みず…!?』 ロアが驚くと同時にクロアが立ち止まり、空を見上げて、ポツリ―、ポツリ―と降り落ちてくる水滴に、 「雨が降ってきましたね」 「へ?……あぁ……うん…」 『何でこの間合いで雨……?』 間合いの悪さに深く落ち込むロアを余所に、 「失礼します」 「へ!?!?」 クロアはロアをまだ濡れていない草地に一度降ろすと、クロアが着ていた側近の官服の上着を脱ぎ、雨避けとしてロアの頭に被せて来た。 「え?待て!!お前は!?」 「私は大丈夫です」 雨に濡れやすい白シャツ姿になってしまったクロアにロアが慌ててしまう。 「でもッ!!」 「雨を避けられる場所まで急ぎますので、しっかり掴まっていて下さい」 「ッ!!クロア!!」 再び、クロアはロアを抱き上げると、雨足の強まる中、雨を避けられる場所を探して、足早に歩き始める。 その間にもクロアの着ている白シャツが雨粒を絶え間無く吸い込み、ロアの視界の中で徐々に濡れて行くクロアの身体。
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