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ロアが可能な限り濡れないようにと自身を雨避けの盾にして、先を急ぐクロアの姿に、
「ッ…クロア!!」
「私は貴方を御護りするための側近ですので、このくらいの事は何でもありません」
「ッ!!」
居たたまれなくなったロアの叫びに、クロアは真摯な眼差しで穏やかにそう応えてきた。
―“側近”―
主である者を何事からも護る存在。
例えそれが、雨の一滴であったとしても…、
主であるロアに取って有害となるモノであれば、クロアは己の全てを賭けてロアを護り抜く。
『……そうだ……それが……』
それが、側近であるクロアの務め。
クロアがロアの傍に居る事を許されている本来の理由と存在意義。
喩え、ロアであっても奪う事の出来ないクロアの誇り。
それを理解すると同時にロアの心が後悔に揺れて、泣き出したくなった。
『私はお前に…』
ロアの心の中で、クロアに告げなくてはならない言葉が浮かび。
強さを増して行く雨音が、ロアの耳を打つ。
クロアの温もりを感じながら、全身が羞恥の熱を帯びたように熱く。後悔が胸を締め付けるように息が苦しく。ゆらゆらと薄靄(ウスモヤ)の中を彷徨い揺れる意識の中でロアが眼を覚ますとそこは、
『此処は…』
「クロ…ア……?」
全身を苛む発熱が原因で虚ろな状態のまま意識を浮上させたロアが、目の前に拡がる天井をぼんやりと見詰め、熱で掠れた声でクロアを呼ぶと、
「目が覚められましたか?」
直ぐ様、応じるクロアの声。
「…ここ……は…」
「私の部屋です。まだ、熱が引いておりませんので、もう少し、お休み下さい」
ロアの頬に当てられるクロアの掌。
クロアの部屋の天蓋の無い寝台の中で目覚めたロアを、クロアが心配した眼差しで見詰め、様子を窺ってくる。
身体が発熱しているために冷たく感じるクロアの掌がロアには心地好く、無意識に頬を擦り寄せてしまいながら、
「…クロア……お前、聖司補佐の……服……?」
夢の中で見た時の側近の官服とは違う、聖司補佐官の官服姿であるクロアにその事を指摘すると、
「本日は月曜です」
「……月、曜…?」
既に日付が変わり、ロアが半日以上も眠り続けていた事をクロアは伝えてきた。
「神殿は前聖司官のレティス様に昨夜の内に連絡を入れ、代理をお願いしております」
ロアが安心して休めるように、クロアは神殿の様子を簡単に告げる。
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