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恋人を求めるような情欲は感じさせず、ただ、ロアを気遣い労る誠実なクロアの手付きに、ロアはふとある事を思い出し、
「クロア、」
「なんだ?」
「私はお前に謝らなくてはならない事がある」
クロアに身体を拭かれながら、夢の中で告げた内容を切り出した。
すると、
「それはもしかして、俺が怒った原因についての事か?」
「そうだ」
熱に侵され、クロアに直接告げた謝罪を夢だと思い込んでいるロアの様子に、クロアは微かな苦笑を浮かべ、
「お前からの謝罪ならもう、貰った」
「貰った……?」
「一度、目覚めた時に謝罪してくれただろ」
「あれは………、」
夢だと思っていた内容が夢ではなかったとクロアに説明され、
「なら、お前は私を許して……?」
「口付けた事を覚えていないのか?」
「ッ…」
クロアの手がロアの顎を軽く捕らえると、からかいの仕草でロアの唇をそっと親指で撫で、ロアは戸惑いの表情でクロアの手から逃げるように顎を引き、軽く俯いてしまった。
ロアの頬にほんのりと射す、淡い羞恥の紅。
クロアの気持ちに気付く事ができた嬉しさと、訳の分からない気恥ずかしさで、ロアは居たたまれない心地になってしまい。
他の者からすれば一見、無表情に見えるが、クロアに対しての事柄なら、本当に素直な反応が浮かぶロアの姿に、クロアは抑えきれない愛らしさを感じていた。
「それで、武道大会の件だが…、」
「?、あ…、あぁ」
ロアの気持ちを落ち着かせる為に、クロアから唐突に切り出された武道大会出場の話にロアが慌てて顔を上げると、
「実は休暇日の話し合いで、今回の大会では一般出場者達の実力が低いと問題になっているらしく、各組織から一定の実力者達を募り出場させるとの話があった」
休暇日に告げられなかった、武道大会出場者の件について、クロアはロアに告げてきた。
毎回、予選大会の段階から、各組織への採用者も出る武道大会。
しかし、毎回、組織に採用されるだけの実力を持つ者達が集う筈もなく。その為に、一般の出場者達の実力がこれまでの大会出場者達よりも遥かに劣ると判断された場合は、次回からの大会出場者の意識と実力を向上させる為に、中央組織、神殿、元老院に所属する一定の実力者達が大会出場者として選出される事があった。
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